義に死ぬ事、栄光の死を夢見て輝いていた船乗りの男性。
だが、結婚して父親になった途端に、凡俗に堕して醜くなる…。
『午後の曳航』のエッセンスは、これに尽きる。
だから処刑する事により、もう一度英雄に戻す事にする。
という、三島先生自身の将来を予見するかの様な結末も、「終わりがなければ美ではない。永続性は美ではない」という、悲劇的な結末を美と捉えて礼賛する三島先生独特の、ある意味で非常に偏った美意識の反映だと思います。
そういう意味では、いかにも三島先生らしい小説です。
ただひとつ気になるのが…。
被害者やご遺族の方々に配慮して言葉を選びますが、港町 横浜を舞台に「少年が内包する猟奇的な残酷さ」を、これでもかこれでもかと描いているこの小説は、発表から34年後の1997年の神戸連続児童殺傷事件と、内容が酷似している点です。
酒鬼薔薇を名乗る加害少年は、凶器に金槌を使いました。
三島先生は、『午後の曳航』発表の半年前に出された『薔薇刑』という写真集で、槌を口に挟んだ写真を発表しています。